久しぶりの休日、外はあいにくの土砂降りで
朝から地面は派手に水飛沫をあげている。

どちらかといえばインドアな趣味も持ち合わせる俺と、
明らかにアウトドア派な彼と。いまは俺の部屋に二人っきりだ。

座りこんで先輩の持ってきてくれた最新の雑誌をめくりながら、ちらりと視線を上げる。
堂々と人のベッドに俯せた相手は、さっきまで読んでいた漫画を伏せて携帯をいじっている。

女子高生さながら両手でメールを打つ速さは、無駄に高速。
その横顔を眺める俺の視線にはまったく気付いていない。


「…謙也さん、誰にメールしてんすか」

「んー…」


聞いてるのかいないのか、おそらく後者だ。
変わらず携帯に夢中の先輩は、こっちを見向きもしない。

こんなことでいちいち嫉妬してたらこの人とは付き合えないと分かっていながら、
せっかく久々に俺らだけなのに、だらだら過ぎていく時間が勿体ないと思った。


舐めるように目線を動かせば、上着が少しめくれて腰のあたりに素肌が見えている。
もちろん本人は気付かない。

そういえば最近この人に触れていない。
思いついたら躊躇いなく即、行動に移すのは必然で。



「謙也さぁん」

「んー…待っ」


返事なんて聞く前に手をのばした。
素早く動いた布の擦れる音に混じり、えっ、と短い声が耳に届いた…気がする。

簡単に無視して無防備な背中を跨いでのしかかる。
今度はぐぇ、だかうぇ、だか分からない声。

馬乗りになって上から金髪のつむじを見下ろす。
むかつくことに普段ならまったく見ることのできない景色だ。


「光っ、何しとんねん!重たい」


相変わらず色気もへったくれもない声音に溜め息が出る。
必死に首を捻っておれを見上げてくる表情は弟のいたずらを窘める兄の顔だ。

そんな顔が見たいんじゃない。まぁ悪戯を仕掛ける、という意味では変わりないけど、ニュアンスが違う。


「先輩が相手してくれんから、おれから手ぇ出そ思て」

「…ハァ?何ゆっ」


ぴた、と口と体の動きがとまったのは、宣言通りおれが手を出したから。
正確には、めくれた服の裾から手を突っ込んで、いきなり指で腹筋を撫でたから。
なるたけこそばゆい、でなくてイヤらしくなるよう意識して。


「…ひか」


こっちを見上げる大きな瞳がさらに丸くなる。
顔に近づくために、背中の上にぺたんと寝そべって振り返る首筋にキスをした。


「っ、」

「何、部長にメール?」


謙也さん越しに覗き込んだ携帯の液晶には打ちかけの学校の話題が点滅していて、
内容的に宛先は白石部長で間違いない…はずだ。

おれに乗っかかられて動揺してるらしき彼はいつもよりずっと動きが鈍い。
さらに追い打ちをかけるべく、目の前のきれいな形をした耳に舌を這わせた。


「っひぁ、!」


その瞬間に携帯を取り上げ、勝手に文字列を付け足す。
パソコンよりは遅いがおれも早打ちは得意だから一気に打ちこんで、送信を押した。


「あー!!おま、」


おれに舐められた耳を抑え、赤い顔して謙也さんが叫ぶ。
残念、もう遅い。きっとメールはすでに部長の手元に届いている。

手にした携帯をベッドの下に放って、もう一度彼の背中にぺったりくっついた。


「…ッ、重いっちゅーねん、てか勝手に何すんねん阿呆!」

「ー謙也さんが、無視するからや」


喚きたてるやかましい声を封じるべく耳元で吐息交じりに囁けば、
途端びくっと下敷きの体が震えて押し黙る。

身体はおれより大きいのに、こんなときのリアクションは先輩の威厳のかけらもない。
それが可愛いといえば、確かにそうなんだけれど。

上から隙間なく引っ付いて顔を肩口に埋め、身体を撫でる。

基本スキンシップが好きなほうである彼は何も言わず、ただ目線だけは投げ捨てられた携帯に向いている。
いつの間にか返事が返ってきたらしく、メール着信ランプが点滅していた。


「…光」

「なんすか」

「白石に何て、送ったん…」

「ーー何て送ったと思います?」


半ば恐る恐る、といった感じの聞き方につい笑ってしまう。
むぅっと歪んだ顔とさいあくや、とのせりふは彼の言い分で、だけど俺に対して怒ることは無く。

多分しばらくの間は学校でもあのメールで部長にしつこくいじられるんだろうけど
そんなことより、今は。


「‥俺とおるときは、俺んことだけ考えといて」


無茶なわがままを伝えると謙也さんは一瞬ア然として、しゃあないやっちゃ、と笑う。

これで当分、この人の頭は自分でいっぱいになる。
そんな独占欲に眩暈を覚えつつ、あらためて唇にキスをした。


窓の外に覗くのは、まだ降り止む気配のない雨。

やっぱりこの人の背景には太陽が似合うから、
俺はらしくもなく「晴れますように」と空に向かい願った。



あこがれ太陽
END
す…すこしは甘くなったでしょうか?光謙です。てか白石をダシに使ってすみません。
途中からエロスにするか悩んで…今回は自重しました。謙也さんが全くえろくなりません、どうしたら!(知るか)
財前が送ったメール内容はご想像におまかせで。めっちゃウッザい自分との惚気を謙也風に作った、とか多分そんなんです。
09/03/16