九月、暦上ではもう秋にあたるけれどまだ夏の暑さは継続している。 そんな中、なぜ自分たちはもっと暑くるしいことをしているのか。 テニスにも言えることだったけど、それはそれとして。 剥き出しの首筋を背中を、汗がたらたら伝い落ちていく。 項のあたりの髪の毛はさながら風呂上がりのようで、いびつな束感を作っている。 「…、あっつ…」 口の端からもう何回言ったか分からない言葉が漏れる。 すると後ろから腰を支えていた指先がつうっと肩甲骨のくぼみに添い辿った。 ぬるつきながら滑る感触に、俯せの上半身がクッと起き上がる。 「ッ、ん!」 「…ほんと、汗すごかね」 少し笑いを含んだような声に、頬がかっと熱くなる。 首だけで振り返ると、やはり千歳は口許に笑みを浮かべていた。 薄暗い中で目をこらしてみると当然相手の顔にも汗が見えるものの、 自分の発汗量と比べるとたいしたことはない。 「わ、るかったな…汗かきで…っ!」 「なんも悪いったぁ言うちょらんよ」 悪態にのんびり答えて、千歳が背中の上へ覆うようにのしかかる。 急に加わった重さにぐぇ、と声がでた。 行為自体はもう何度かしたけれど、 いまだにこの体重差だけは本気で苦痛だった。 しかも相手に全く悪気がないだけに余計、ツライ。 もともとよく汗をかく体質だったのが、 中学でテニスをするうちさらにひどくなったように思う。 それがこんな暑い部屋で、 もっと熱くなることをしているのだから大変である。 滴る水滴が両目に入りそうなほど、全身汗だくだった。 ぴったり重なった体から、熱や鼓動が伝わってくる。 背後から擦り寄るように首へと唇をはわされ、びくんと肩が揺れる。 「ふゎっ…!」 「ホラ、汗かく方が健康やって言うし」 「…っなんで」 「えぇと…新陳代謝が活性化しとる…とか?」 「いみわから、っへん…」 耳元で話されるたび吐息で体が震う。 すでにもう一度は交わったあとだというのに、 体の中に再び熱が溜まるのを感じ、羞恥心が込み上げた。 こちらの葛藤も知らずに、舌で耳の裏をくすぐるように舐められる。 しょっぱ、という呟きに内心で当たり前や阿呆、と返す。 「けど俺ユウジの汗のにおい、好いとうよ」 「…ーッ、イキナリ何を言うとんねん!」 汗に濡れた体を撫でる手の平に翻弄されつつ、唐突なフェチ発言にぎょっとなる。 これだけ汗だくで、いいにおいなどするワケもないのに。 おかしなものを見る目を向けると、千歳は至って普通の顔をしていた。 「んー何て言うん、やらかいような、甘ったいような…よかにおいがするん」 「…それ子どものにおい、ってことちゃうん」 ムッとして突っ込むと千歳は 「ああ、近いかも!」などと元気に肯定した。 わざと言っているワケもないんだろうが、 前々から気にしているところを指摘されるとさすがにへこむ。 「子どもみたいなにおい」とは他でもない、身内から言われたせりふである。 15にもなって真夏に運動、しかも汗っかきな体質とくれば、 多少なりとも汗くさい…男っぽいにおいになろうものを、 自分は母からしても「子ども臭」らしい。 別に自ら志願して汗くさくなりたい訳ではないが、まるでまだ小学生みたいだと… 一人前の男じゃないと、遠回しに指摘されているようで嫌なのに。 ふいに黙りこんだのを不思議に思ったのか、千歳が首を傾げる。 「ーーユウジ?怒ったん?」 「…。怒ってへん」 機嫌をとるように首筋へちゅっと口づけられる。 身体は無駄なまでにでかいくせに、こういう気遣いや触れ方はいやに繊細だ。 素肌にふれる髪がくすぐったくて身をよじると、 今度は斜め後ろから促されるまま唇を噛むようにキスをされた。 舌を絡め、ふぅっと息をつく。 「ー俺が思うに、ユウジの汗からはフェロモンも出とるばい」 「…ハ?なんそれ?」 「ー相手を、誘惑するにおい」 にぃっと笑う千歳の表情がいつもよりやたら大人びていてドキッとする。 元来同い年にはとても見られないが、 こういう話やシーンでは特に精神年齢の違いなんかを実感してしまう。 「(ーうん…いや、でも)」 しかし実際、体臭や汗のにおいは、一種の興奮材料のひとつだとは思う。 もしかして二人そろってちょっと異常な性癖でもあるんだろうか。 思いあたった答えに眉を寄せ悶々としている間に、 手の平で胸をまさぐられてようやく我に返る。 続けざまに臀部へ当たった硬い感触に、バッと後ろを振り向く。 「…っ!て、おい」 「ん〜…やっぱりムラムラしてきた」 もう一回、よか?…とか、お願いしている姿自体は可愛いのかもしれない。 が、聞いておきながらもすでにそっちは臨戦態勢である。 「ーお前って案外ムッツリやんな…」 「あはは…そうかもね」 厭味のつもりで言った台詞もさらっと流し、 千歳の指は汗で濡れる胸の上を筋肉に添いつるつると這う。 意図的か故意にか、胸の突起を指が掠めて思わず息を飲む。 そちらに気をとられた隙に、つい少し前まで 相手とつながっていたところへ、再び熱くなった性器が押し当てられる。 「…ッ、んっあ…、っ…」 反射的に身体が一度びくついて、頬を伝う汗が首を伝い流れていく。 軽々と持ち上げられた腰を引かれるのと同時に、ぬくりと熱い楔が打ち込まれる。 一旦ゆっくりと時間をかけてほぐされた身体は、痛みもなく 随分すんなり相手の侵入を許した。 「一気に、入ったね」 「…、っさい…」 されるがままなのが悔しくて悪態をつくと、また背後でくすくす笑う気配。 頬や耳が焼けるように熱い。 やがて奥まで届いていた性器を根元まで引き抜かれる。 ぞくぞく込み上げる何ともいえない感覚に、声をあげまいと唇を噛み締めた。 「…っ!」 ふいに、無意識に固くなっていた手の甲を包むように そっと上から手を握られて、反射的に振り向く。 向けられているのは、熱っぽい中に違った感情の見え隠れする視線。 言葉にしなくても、行動から表情から何が言いたいのか伝わってくる。 自分に対して乱暴なことや嫌がることはしない、そんな優しさを好きだと思う。 しかし同時に、複雑な気持ちにもなるのだ。 「…っあほ、んな気ぃ…遣うな、や」 「ーユウジ」 たしかに身体への負担はあるし、体重や体力の差だってある。 回数を重ねても全く辛くなくなったわけではない。 それでも。 すべて許してしまえる相手だと思うから、 こんなふうにすべてを預けられるのだ。 汗のにおいも声も手のひらの温度も、 言葉にはなかなかできなくても、触れあることがこんなにもうれしくて。 だからこそ、どんなときでも相手と対等の立場にありたかった。 「ヘンな遠慮とか…いらん、から」 「…ん。分かった。ありがとう」 ハの字に下がった眉がようやく笑みにかわる。 つられて口角を上げると、唐突に腰を深く突き入れられた。 「…っんあ!」 「したら、遠慮なくー」 音をたてて入り込む感触に、とまっていた汗が全身から吹き出す。 さらに左手で半端に勃起していた性器を握られ、思わず目のはしから涙が零れた。 加減をするな、と言ったのは確かだが、何かしら意味を履き違えられている。 そう気付いてさっと青ざめたが、すでに手遅れだった。 手の平に包まれたそこを勢いよく扱かれtて身体が痙攣する。 「ーや…っ!!あ、あかん…っ!」 「…けど気持ち、よか?ユウジ」 「ふ、っ…ん!」 後ろに覆いかぶさるようにされ、繋がった部分がさらに深くなり思わず瞠目する。 相手の汗が熱が、背中の皮膚を越えて伝わる。 ドクドクと打つ速い鼓動はどちらのものか。 のぼせた頭でぼんやりと考えていると、 汗に濡れそぼるうなじを再び舌で舐め上げられた。 「ーーけど、暑いんも、悪くなか。」 半ば無意識に出たであろう言葉に、薄く笑いが浮かんだ。 囁かれた言葉に黙ったまま納得する。 続けて間髪入れず腰を突き上げられ、そのままほぼ同時に射精する。 荒くなった息を整えようと深呼吸すれば、 鼻腔をついた酷い性的なにおいに、何故か笑いがこみ上げた。 それだけでもう、体の芯がじんと熱くなる。 「ー・・・なんや、俺らもう、暑さでおかしなってもたんちゃう?」 汗にまみれた胸にまで飛んだ精液を見てもなお、 まだ離れたくないと感じている自分に少しだけ、動揺した。 花 END いやぁ・・・ガチでできてるチトユウががっつりヤってるのを書きたくて・・(赤裸々すぎる) 汗っかき&子どもくさいユウジはただの趣味です。ちちくさいユウジは最高です!! 私が書く千歳はどうして天然サドになってしまうのか・・不思議です。なんかいろいろごめんなさい。 タイトルは「花」だけとむしろ「鼻」のニュアンスです。つまんねぇよダビデ!(ノリツッコミ) 20/09/29(バネ誕だけに) |