※高校生設定です 静かに目が覚める、頭が覚醒する。 どよんとした薄暗い部屋の中、カーテン越しに雨の湿気た気配。 ーーーああ、一気に憂鬱。 きっと窓ガラスは濡れて、外のアスファルトは黒く変色し、 行き交う車のワイパーがせわしなく動いている。 嫌だな、起きたくない。 広いベッドのとなりに人のぬくもりはなく、掛けぶとんを思うままに引っ張りあげる。 首の上まで白いふとんに埋もれて、聞こえないはずの雨音をも遮断するように耳を手で塞いだ。 身体を横向きにして膝を抱える体勢に丸まる。 服は着ていないけど緩くかかった暖房のおかげで寒くはない、ただ唇が乾燥して歯に張り付く。 ふいに動かした右足のつま先に濡れた布の感触をおぼえて、眉間にシワがよる。 冷たく湿ったシーツの原因は紛れも無く昨夜自分が出したものなのだけど、 とんだ八つ当たりだと分かりながら苛々とした。 早く渇いてしまえ、これだから湿気の多い日は嫌いだ。 ぎゅっと身体を丸め込む、と同時に感じる人の近づく気配。 「ユウジ、起きたん」 遠慮がちな問い掛けと、ふいに香ってくるあまい匂い。 向こうの狭いキッチンで作られた朝食の匂いをここまで連れてきているのだ。 腹は減っている、そりゃ昨日あれだけ激しく動いたのだから当然だ。 けど、起き上がるのが非常に億劫。返事をしないといつまでも 起きたか寝てるか確認しにこられるので、あいまいに「うーん」とだけ返した。 「ご飯食べよ。あと、シーツ洗うけん」 出ておいで、そう促す声は急かし立てるでもなく、のんびりゆったりしてる。 毎度ながら慌ただしく生きる現代人にあるまじき スローライフを送る相手が少し羨ましく思うとともに、絶対にまねできないとも思う。 思い人にふられたのち、頃合いを見計らったように 好きだ好きだと言われはじめたのが高校はいってすぐのこと。 最初は無視していた、あほだのボケだの死ねだのたいがいに酷い言葉も浴びせた。 なのにひとつもへこたれず、好きだと言われつづけた。 …思えばいままで自分は思うばかりで、思われるほうの立場は初めてだった。 あるとき、穏やかな天気の昼下がりに二人きり。 それまでずっと大人しくしていたやつが、突然に獣のようになり、 気付けば床に押し倒され唇を蹂躙されていた。ああ…そのときファーストキスを奪われた。 のしかかる身体はずっと大きくて重く、まったく歯がたたずされるがまま。 悲しいとか、嫌だとかそんな感情はいっさいなかったのに、涙がぼろぼろ零れた。 目の前にいる男が、あまりに悲痛な顔をしていたから。 そのときに聞いた好きだ、って言葉が今まで何百回も聞いたそれより 直球にストレートに心の中へすとんと入ってきた。 あれから何だかんだで付き合うようになって一年くらい経つ。 千歳の中の獣をみたのはあれ一回きりで、それ以降はナリを潜めている。 がっつくように身体を求められることはあれど、嫌だと言うことは基本的にしてこない。 嫌よ嫌よもスキのうち、ていうコトは別にして…下ネタ的な意味で。 まるで惰性で付き合ってしまってるようだけれどきっと 自分はもう、千歳のことを好きになっている。 考えたらいまだに好きだと言葉で伝えたことはないのだけれど 動物的勘のすぐれた相手のことだ、とっくに自分の気持ちなんて見抜かれているんだろう。 これからの互いの人生などどうなるか分からない。 そんなことを忘れるように、考えないように毎日学校へ行き部活して、 たまにキスをしたり抱き合ったりしてるのだ。 現実逃避、といわれればそれまでかもしれないけど。 しょせんおれたちはまだコドモなので、世間の荒波にもまれんのはもうちょっと先でいい。 「ーなに」 「うん?」 「朝ご飯、なに?」 鼻から上だけこんにちはして、覗き込む千歳に尋ねる。 真っ黒い瞳がまるくふたつ見える。 ごくごく平凡なおれに対し、千歳という男はきっと男前の部類だ。 そんなやつがなんでおれみたいなのといるんだろう、といつも悩みかけてやめる。 理由は知りたいけど知りたくないからだ。 「フレンチトースト。ユウジ好いとうやろ」 「…うん、好き」 「だけん、はよ起きんせ。な?」 漂う甘い匂いはバターだったのかと、ふわふわの食感にシナモンの香りまで想像して口角があがる。 至近距離にいる千歳が、それにつられて笑いを浮かべる。 ・・・可愛い、とか思ってしまった。いかんいかん。 ゆっくり身体を起こすと、腕をつかんで手伝ってくれる。 めくれたふとんから裸の胸が出ると、千歳がふいと視線をそらした。 「…朝から目の毒たい」 「失礼やなお前」 「せやて。…押し倒しとうなる」 ゆったりと恥ずかしいことを言い、唇に掠めるキスをして、 おれが下半身を晒すまえに慌ててキッチンへと消えた。 「ーしても、ええのに…」 膝を寄せ、誰もいなくなった部屋でぽつり呟く。 雨の音が聞こえないくらい、また朝から乱れてもよかった。 けど温かいフレンチトーストが待っているから、早く着替えて向こうへ行こう。 なんだか分からないけど、これってきっと恋…なんやろうなぁ。 そういえば、千歳も雨が嫌いだったっけ。 早くやんでしまえ。この世の終わりのような雨! あと3歩半 END これがチトユウバレキスコーラス決定記念 とかいったら張り倒されそうですね! ひそかにお題(6)「空模様」の続きのつもりで書きましたが、別物として見ていただいても大丈夫かな、と。 ちょっとっていうか千歳が微妙にひどい子ですみません・・!きっとユウジが無防備に千歳をタラシこんでたのも原因(えええ) コハ←ユウのちチト→ユウ…いろいろ考え込みすぎてよくわからなくなってしまった。 だけど私はハッピーエンド推奨ですので、このあとユウジの歩み寄り次第で2人は幸せになれるんだ!と思うよ(アッバウト〜!) 20/12/22 |