「えっ」
背後から飛んできた声に、思わず後ろを振り返る。
そういえば…今日はコイツが来てたのをすっかり忘れてた。
いつものクセで部屋に帰ったら真っ先に脱ぐ制服のズボンが、中途半端に足に絡まっている。
ちょっと悩んだ末、蹴飛ばす勢いで脱ぎ去った。
「ーええやん、脱いだほうがラクなんやもん。暑いし」
部室で散々着替えてるし、
別にパンツ一枚の姿を見られたところで照れるわけでもない。
開き直って断言すれば、黙って苦笑いされた。
言いたいことがあるなら言えっていうか、
こういう大人ぶったリアクションをされるとイラッとくる。
カッターシャツにトランクスという
最高にリラックスした格好で自分のベッドにぼすんと座る。
今だ部屋の入口あたりに立ち尽くしたまんまのでっかい図体を見上げると、
なんとも複雑な顔をしていた。
「お前も脱げば」
「ーーーえ?!…いや、大丈夫」
「ふぅん」
何気に問い掛けたらぎょっとしたみたいに目を丸くして拒否られる。
視線をそらされ、しばらく謎の沈黙ができた。
なんでそんなに堅っ苦しいのか、全く分からなくて首を傾げる。
本当にそんなこと…今更、気にするような仲でもないはずなのに。
言葉にするのは恥ずかしいので口にしない。
「てか座れば?」
「…あ、ああ」
戸惑いながら促して、ようやく千歳が部屋の床に腰を降ろす。
何だろうこの、相手との微妙な距離。
…なんか、違和感。
いっつもなら頼んでなくてもすぐ隣に座るのに、なんで?
他人の真似をするために人間観察は重要だけど、
心の中までは読み切れない。中でも千歳は人一倍、誰よりも掴みきれなかった。
いつもみたいに人前で頭を撫でられたり
妙にべったりくっつかれるのは嫌だけど(俺が小春にするのは別)
それにしたって急によそよそしくされるのは気分がいいものじゃない。
普段から言葉よりスキンシップ過多な千歳が相手なら、なおさらだ。
我が儘だと分かりながら、少し苛ついた。
「…なあ、俺なんかした?」
「えっ」
「おかしいでジブン、さっきから。よそよそしい、っちゅうか…何ちゅうか」
だんだん自分の自意識過剰かとも思えてきて声が小さくなる。
千歳は目を瞠り、口を少し開けたまま動かない。
大人っぽいかと思えば意外なところで妙に頑固だったりするこいつとは
些細なことで喧嘩になると、地味に長引くことが多い。
また長丁場になるかと身構えるより先に、相手の口が動いた。
「……近付いたら、まずいと思たけん」
「へっ」
聞こえた言葉の意味が分からず、ベッドから身を乗り出してもう一回、と促す。
ちょっと間があき、視線をそらしたまま千歳は真顔で言った。
「ほら。ユウジに誘惑される」
「………」
今度は俺が唖然と固まる番だった。誘惑?って、何が?なんで?
頭の中にはてなマークをぎっしり浮かべていると、
いつの間にかにじり寄ってきた千歳に下からいきなりキスされた。
「ん…っ!」
むにっとした感触にびっくりして目を閉じたら今度は
肩を押され、仰向けでベッドに倒れ込む。
下半身に体重のっかかられてめっちゃ重い…、ではなくて。
「ちょ…おまえ、何しよんねん」
顔が離れたすきに寝転んだまま突っ込むと、
千歳は向かい合っておれの体を両腕で挟み、真上っからじっと見下ろしてきた。
笑うでも、怒るでもない、表情のよめない顔。
…怖くなんてないのに、心臓がきゅうっとなる。
「ユウジが悪か」
「…はぁ?!なんでやねん」
理不尽な言い草にかちんときて言い返す。
すると千歳はまったく怯まず、しかもあろうことか
迷いなく伸びてきた手の平で剥き出しの俺の太腿を撫でた。
「ーッひや!」
「…二人っきりん時に、こんな格好するけん」
そこまで言われて、ようやく話が見えてきた。
要するに俺にはまったくもってソノ気はなかったのを、
相手がどうもソッチの意味に捉えたらしい。
ていうか、本気であんな色気のない誘い方してたまるか!と思いながらも、
まんまと流されそうな展開に頬が熱くなる。
「俺はあかん思て離れとるのに、ユウジは…そんなこと言うし」
「…ちょ、ち、千歳っ!」
じりじり近付く距離、迫る相手の瞳からは見つめるだけで火が燃え移りそう。
ついてないことに今日にかぎって家には俺たちしかいない…
否、ついてないというか、幸い…というか。
二人ぶんの体重でベッドのばねがギシギシなる。
一瞬でも大人っぽい とか思ったのがバカみたいだ。
冗談まじりのじゃれあいならここで突っぱねておしまいなのだが、
どうやらそういう雰囲気ではないらしく。
俺はただ、ほんとに暑かっただけ、なのに。
自分に意味の無い言い訳をしながらも、
頬に添えられた手の熱さをじかに感じて、ようやく腹をくくる決意をした。
結果的に押し倒された状態から、真上の千歳に向かって腕を伸ばして抱き着く。
「ユウジ…?」
「ーーええよ、べつに。しても…」
さすがに顔は直視できず、制服越しの胸元に埋もれて小さく呟く。
相手の息を飲む音と同時に、上からぎゅうっと抱きしめられた。
まだ日も暮れないうちから何をしてるのか。
我に返るといろいろダメになりそうで、目の前のことに集中する。
考えたら抱き合うこと自体、結構久しぶりだった。
シャツを半分以上脱がされた状態の今もなお、緊張と恥ずかしさが拭い去れない。
「っふ、…!」
急に首あたりにいた唇が胸に降りてきて体がはねる。
千歳は俺の様子に気付きながら口元を吊り上げて笑い、
シャツをめくって胸の先端を吸い上げた。突起を転がす舌に指先に、いやでも反応してしまう。
「や…あ、汗…かいとる、から…舐めんな…っ」
「やだ」
「……」
言うなり即 拒否られて絶句する。
でかい図体して、しかもこんなやらしいことしてるのに、
何でそういう言い方だけ子供っぽいのか。
悶々と考えていると、空いた片手が直接パンツの中に突っ込まれた。
顔は胸のとこにあるまま、手元は半勃ちのそこをなぞるように触れる。
先っぽを指先で弄られて、足のつま先まで微電流が走りぬける。
「あ、あ…っ!」
「…もう、固くなっとる」
言われたそれが胸なのかアソコのことなのか、
はたまた両方なのか分からないが、唾液で濡れた乳首に息がかかり露骨に身震いしてしまう。
「ッ、…んやあ」
「ーユウジは胸、弱かね」
「…っ誰のせいや、てかそこで、喋んな…っ」
「っふ。やだ」
続けてまた乳首を舐めたり吸ったりされて、放置された下半身にジンジン熱が溜まっていく。
最初のころはこんな、胸なんか、全然気持ちよく感じたりしなかったのに。
執拗になぶられてるうちに、ただ握られてるだけの性器まで元気になってきてしまう。
胸ばっかりをずっと攻められててもどかしい。寧ろ、ちょっと…辛い。
「…ーっ、千歳ぇ…」
「何?」
「も、そこ…は、ええ、から」
顔がめちゃくちゃに熱い、長く風呂に浸かりすぎた時みたいに。
体をよじらせて手の平に勃起したものを擦りつけると、ようやく顔を離してくれた。
しつこくしゃぶられた乳首は膨らんで真っ赤に腫れてる。
明日には治る…よな?これ。
「…やらしかぁ」
蕩けたようににっこり笑う、そんな千歳もたいがいにやらしい。
俺とちがい、まだシャツもズボンもそのままだけど、
股間の状態がふつうじゃないのは組み敷かれた俺からもわかる。
…そしてふいに込み上げる、あくなき好奇心。
片肘をつき、体を起こす。顔が近付いたはずみに、唇を軽くあわせた。
「ー…なぁ、千歳ー」
「ん?なんね?」
「…あんな、舐めたい」
「…へ」
「お前のん。…あかん?」
首を軽く傾げて尋ねる。
思えば過去に自分のを口でされたことは何回もあるが、
俺から千歳に「ご奉仕」したことはなかった。
もちろんうまくやる自信なんて全然ないけど、
たまにはこっちからアクションしてみたっていいだろうし。
俺の前向きな気分とはうらはらに、
千歳はしばらく無言で固まってから重い溜め息を吐いた。
嫌なのかと思い眉を寄せるとまたキスをされて、顔を見れば目許を赤くしている。
「ーもう…そんなん、狡かー…」
何のことかは分からないかれどもどうやら嬉しいらしいので、
さっそく実践する、と言うと微妙に戸惑いながら
「お願いします」とヘンにかしこまって言われた。
服の前をひろげてそれを取り出す。
初めて目前に迫る他人のそれは何とも形容しがたいモノだったが、しかし それにしても。
「………でっか」
ついぽろっと口をついて出た本音に
千歳の手がギュッと俺の髪を引っ張った、痛くない程度に。
顔を上げたら見たことないぐらい赤くなった相手と目があう。
「…何すんねん」
「ーーそ、んなことは言わんでよか」
「だってほんまに」
「ユウジーっ」
慌てて言葉をせき止める千歳の様子が可笑しい。
いっつも主導権とられっぱなしなせいか、えらく可愛く感じた。
ちょっと笑いの余韻が残るまま、勢いで先端を口に含む。
ビクッと揺れた足にまたニヤけながら、何とかいけるところまで銜えてみる。
いつも自分がされるときのことを思い出そうとするけど、
初めて口にする触感に味に、思考がうまく働いてくれない。
してる側なのに頭がぼうっとしてくる。
舌で先っぽの裏側を何度かなぞるうち、指で支えた性器本体がジンワリ熱くなったのが分かる。
「(…気持ちエエんやろか、これで…)」
コツもなにも分からないのが不安になり、そっと視線を上げる。
すると口元を手で覆い、赤くなった千歳が目を細め、めちゃめちゃ険しい顔をしていた。
「(…、いいんか?悪いんか?どっち?)」
「ーな、ひとせ、ひもちええ?」
意を決して聞くと、ぎょっとしたように目を見開き、
視線があうや否やいきなり俺の体を股間から引っぺがした。
「ふわっ…!ッにすん…!」
そのまま背中からベッドに倒れ込む。
もしかして俺が相当ヘタクソだった…とか?
怒らせたかと内心焦っていると、
いきなりがばっと上からのしかかられてすごい勢いでキスをされた。
「んむっ…!」
舌を絡められ息ができずに足がびくびく痙攣する。
さらに長くほったらかしにされてた性器をいきなり握り、激しく扱き上げられた。
「んうっぅ、うー!…っ」
突然の強すぎる刺激に堪えきれず涙が出て来る。足が引き攣りそうになる。
何とか覆いかぶさる胸を押し返すと、ようやく唇が離れ、酸素が口から入りこむ。
「…っ、げほ、ふ…っ」
「っは、…ごめん、ユウジ」
聞こえてきた声音は切羽詰まっているものの柔らかで、怒っているような印象はない。
優しく抱きしめられて、今度は体が疼く。
「千歳…っも、ええから…早よ…」
思わず声に出してしまってから、恥ずかしくて顔が熱くなる。
涙が流れた頬を舐め上げながら、千歳の手がまた下半身を弄る。
我慢しきれずに溢れてきた先走りの汁をもっと出せと促すみたいに触られ、
本気で足ががくがく震えた。
「やぁ、あ、あっ…!」
濡らした指が更に奥に伸ばされ、今から千歳を受け入れる場所を探る。
慎重に、でも確実にそこを広げる意図を持って指が侵入し、ナカを撫でてくる。
やっぱり今でもこの瞬間はちょっと痛くて、無意識に目を閉じてしまっていると
上から瞼へ軽いキスが何度も落とされる。
「ー大…丈夫、やで」
「…うん」
薄く目を開いて笑ってみせると、千歳は困ったように笑い返した。
と、ふいに指先が触れた場所に、体がビクッと跳ね上がる。
はっとして口元をおさえる。
目がかち合い、さっきより悪戯そうな表情を見て体温がさらに上がった気がした。
半分起き上がってしまった上半身を静かに寝かされて、
一回見つかったソコを狙いしつこく突っつかれる。
そのたびに電気ショックみたいのがつま先まで走り抜けた。
「あ、っあん、や…ぁ…!」
反射的に閉じようとする足を手で押さえられ、
激しく指を抜き差しするたびやらしい水音が鳴る。
自分のとめどなく漏れる声も聞きたくない、聞かれたくないのに。
恥ずかしくて耳を塞ぎたくなりながらも堪えてると、唐突に手を離された。
慣らされたソコが意思とか関係ナシにヒクつく。
「ー…ユウジ」
いつもより、さっきより、ずっと熱っぽく名前を呼ばれ、
至近距離で見る表情がひどく大人びているのに、ぞくっとした。
求められるまま唇をあわせて、同時に下半身に押し当てられる熱い物。
ついさっき自分の口の中に入ってたのかと思うと何かヤバイぐらい興奮して、
自分の性器からじわっ、と何かが染み出た。
ぐ、と押し入ってくる、固くて熱い熱い感触。
柔らかくひらいた狭い入り口で相手のことを受け止めようと、なるたけ体から力を
抜く。
「ーッ息、吐いて」
「…っふ、」
体をつなぐことが全てではない とは思うけど、
これで初めて相手を知ったり、分かったりすることがあるのも事実で。
現に千歳のここまで余裕のない顔はこんなときしか見られない。
そう言う俺も、もちろん…めちゃくちゃ余裕ないけど。恥ずかしいし………気持ちイイ。
「んっ、あ…」
「……ユウジ、よそ事考えとらんと?」
「っ、ちゃうで、おまえの…、っことや」
「ーふ。なら、よか」
一瞬で不満げな表情を消し去り、千歳は得意げに笑う。
ーーーほら、またそんな。
俺の目の前でほかの誰も知らない顔するから…心臓が爆発しそうになる。
無意識につながった箇所を締め付けてしまうとお互いにもう、限界が近かった。
中に突っ込まれたそれを一回引き抜いて、さっきより早く奥まで挿入される。
ひたすら抜き差しを繰り返されるたび、
頭の中身が全部消えてなくなりそうにチカチカして、真っ白になっていく。
落っこちそうな意識の中で必死に手をのばし、相手の背中に縋り付く。
手のひらが汗で滑る、体が熱い。
ぐちゅぐちゅやらしい音をたてて体を揺さぶられるたび、迫ってくる白さに目が眩んだ。
「っん、っん!ふ、…っあ、も…!」
もうだめ、声が出ず掠れた息だけが漏れて薄くひらいた目に、千歳の双眸がうつる。
汗が首から胸へだらだら流れる。相手の顔をつたう汗が、俺の体へ落ちる。
「ーーユウジ、」
「千、歳ッ…っあ…、あ!」
叫ぶように強く名前を呼んだ途端一際つよく突き入れられ、
ぱん、と明るく何かが弾け跳ぶ。
直後、つながる下半身の部分が溶けたみたいに熱くなった。
勃ちあがった自分の性器をどろどろ何かが垂れていく。
先に自分が達して、そのあと、俺の腹の上あたりに相手が出したらしい。
あんなに体が性に支配されてても、ぜったい中には出さない。
多分これは千歳なりの優しさとゆう、本能の一部。
二人ぶんの荒い息が部屋に響く。
動きが止まった途端、一気に熱気で汗が噴き出してきた。
「…はぁ、あっつ…」
なんの色気もない声を出すと千歳が上で微かに笑った気配がした。
続いて手の平で汗だくの髪の生え際を撫でながら、やさしく唇へキスされる。
ことが終わったあとの、こういう時間は嫌いじゃない。
だけど頭や体にのぼった血がひいていくにつれ、
気恥ずかしさが込み上げてきてどうしようもなくなってしまう。
どうにかこの空気を変えられないかと、無理にカラカラの喉を開いた。
はだかで向かい合って抱き合いながら、変える空気も何もないけど。
「あー…汗、きしょくわるい」
「うん」
「腹減った…」
「うん」
相槌をうちながらも、千歳から降るキスの雨はやまない。
そうっと自分の腹の上をさわると、俺と千歳の、混じり合わない白濁のDNAが指先に絡んだ。
黙って顔を上げる。また目が合った。
「…ちとせ、」
「うん?」
「…すきやで」
「ーん、俺も」
何となく言いたくなって伝えると、上からぎゅうぎゅう抱きしめられて少し痛かった。
けど、あんまりにも幸せそうに笑うもんだから、黙って我慢した。
「…ーしかし…あの上目遣いは反則ばい」
「え、なんや?」
「…何もなか」
END
「ナチュラルに付き合ってる」「前戯から事後まで」「ユウジからフェr」「とにかく最初から最後まで」「イチャイチャパラダイス」
なんかそんなテーマで書き始めて詰め込んでみました。詰め込みすぎた感がなきにしもあらずです。
わたしがいかにチトユウに夢見てるか、というのこれでようやくちょっと(ちょっと!?)発散できたかな・・と思います。
21/02/13
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