ごそごそ、すぐ隣でヒトの動く気配がして目を覚ます。


薄暗い部屋、ひとつのベッドで二人
窮屈に横になったまま、死んだように眠っていたらしい。

体を起こした相手は、ベッドサイドで何かをいじっている。
ふと、目の前の剥き出しの背中に少しだけだが明らかな引っ掻き傷を見つけ、顔がかっと熱くなった。


「(う、わ…)」


紛れもなくつい何時間か前、身体を繋いだときに自分がつけた跡、だった。
まったく記憶にない辺り、昨夜も相当相手にされるがままになったのかと思い知る。

いつもいつも、今日こそはと決意して挑むのに、気付けば必ず相手に主導権を握られてしまう。
悔しいやら恥ずかしいやら悶々としているうち、頭の上から聞いたことのない洋楽が流れてきた。

時折ノイズが入ることから、音源はラジオだと分かる。
しばらくチャンネルを調整する音がして、再び相手が隣に潜り込んできた。


「あ…」


寝ているふりをしようと思ったのに、ばっちり目があってしまう。
言い逃れできない状況に何を口にするか逡巡する。


「…起きてたんすか」


先に声を発したのは相手のほうで、いかにも寝起きの掠れた声音にドキッとした。
もしかして起こしてもた?と聞かれ、そんなことないと首を横に振る。


「光、いまなんじ?」

「え、と…4時半ぐらい」


携帯のパネルで確認して答えながら、
すっとこちらに手を伸ばされ頬を撫でられる。


「…な、何?」

「こっちのせりふですわ」

「え、」

「…なんで、目ェそらすん」


直球で核心を突いたあげく正面から強く視線を向けられ、
更にうろたえそうになるのを懸命にこらえる。

それでも相手が折れることはなさそうで、迷った末に本当のことを言うことにする。


「ーせ、背中に」

「背中?」

「爪のあと、つけてもた、ごめん…」


次第に尻窄まりになる声、同時に湯あたりしたみたいに顔が熱くなる。
しばらく沈黙があって、財前は ああ、と短く呟いた。


「そんなん、ええすよ別に」

「……」

「そない恥ずかしいん?」

「……うん」


目をそらして頷く。
俯いてるせいで表情は見えないけれど、至近距離で相手が笑う気配がした。


「ー俺は嬉しいすけどね。所有印みたいやし…何より先輩、気持ちよかったみたいで」

「ーなっ…!」


悪戯に笑う相手に反論もできず羞恥で真っ赤になっていると、唐突に唇へ噛み付かれた。
触れるだけでなく、舌も入れられる本気のキス。


「んふ…っ、う…ん」


暗闇と静かなバラードに混じる水音にぞくぞく全身が震えた。
伸びてきた腕は腰に回され、そのまま裸の背中をやさしく這う。


「は、あ…ひかる…、っ」

「ユウジ、先輩」



横抱きになった体勢のまま、財前の手の平が下着越しの股間を掠める。
何となくそうなる予感はしていたのに、キスと緩い愛撫だけで
反応しはじめたそこを刺激され、凄まじい感覚に襲われた。


「あ…っ、」

「ー先輩…してもええっすか?」


熱のこもった息が耳をくすぐる。
もともと財前はそれほど性欲が強い方ではない(と思う)のだが、
その反動なのか一度火が点くとなかなか消えない、というのに最近ようやく気付いてきた。

熱しにくく、ひとたび熱すれば冷めにくい。
こうなったら流されるしかないのだと分かってはいた。が、半日も経たないほど前に
体を重ねたばかりなのに…という理性がギリギリで歯止めをかける。


「っあ、さ…さわる、だけ…?」

「嫌…最後まで」

「な、ん…っんう!」


言葉による抵抗はあえなくキスで封じられる。
すっかり両手首を掴んでベッドに縫い付けられ、上から覆いかぶさる姿勢で財前は得意気に笑った。


「ーユウジ先輩かてもう、出すだけじゃ足らんでしょ?」

「…う」


疑問形ながらも確信めいた聞き方に、反論もできない。
とうに覚えてしまった快感は熱をもって一度は冷めた体の芯に火を点ける。

それでも素直に頷けずにいると、
シーツを剥がされ空気中に晒された性器を指先で摘まれる。


「ひ、やあ…!ひか…、っ」

「完勃ちしたら、ヤル気んなる?」


小さく呟き今度は下半身をいやらしくなで回される。

ついと伸ばされた指が一本、最奥の、先程まで財前とつながっていた場所に埋め込まれる。
一回めの行為のあと処理しきれなかった精液がそこから溢れ、ぐちゅりと鳴った。


「やぁ…っ!ふあ…っ」

「先輩、カオやらしすぎ…あと声だしすぎ」


まぁべつにええけど、
からかい混じりの台詞にももう言い返す力はなく、無意識にひらいた口の端から唾液が垂れた。

弄り回される後ろが期待に疼く。
すっかり勃起した性器は、執拗にいたぶる財前の掌を先走りで濡らした。


「先輩…どうしたい?」

「う、あ…っ…」

「入れてほしい?」


尋ねながら、指でやんわり後ろの入口を撫でる。
自分でもわかるくらい、そこはひくひく収縮した。


「ん…うん、…れて…っ」


舌が回らない。
恥も照れも投げうって、覆いかぶさる財前の首に両腕を絡め抱き寄せる。

一瞬だけ太腿にふれた相手の性器は同じように硬く熱く勃ちあがっていた。


「っふ、かわええわ…」


さっきまでのニヤニヤ笑いではなく、
ふんわり笑う上気した顔は行為に反して幼くて、少し戸惑う。


自分をかわいいと言うなら、財前は…悔しいぐらいにカッコイイ。
腹が立つから直接は言わないけれど。


熱にあてられてぼうっとなるまま、唇に優しいキスをされる。

こんなふうに仰向けで足をめいっぱい開かされて、
泣くほど恥ずかしいのに、心臓がどきどきするのはどうしてなんだろう?


「…光」


吐息に溺れながら、名前を呼ぶ。
静かな空間で、視線が絡み合った。


「好き…や、で」


伝えるなり瞠目した相手はしばらく動きをとめ、
一瞬困った顔をしてからはにかむように笑う。


「ーほんまズルいわ、先輩…」




次に目が覚めたとき、隣で眠る財前の首筋に
くっきりついた歯型を見て卒倒しかけたのは、この数時間後の話。




END
なんか・・・全く中学生らしくないザイユウになりました(自覚してる)今のBGMがなぜかラブマシーン(古!!)
シリアスにするつもりは全くなかったんですけど、ちょっと暗い感じになったよう な・・?
何となく私、チトユウよりザイユウのえろすの方が重い雰囲気+ディープになりがち。
なので途中で寸止め(描写を)してみたんですが・・・甘いザイユウえろすも書いてみたいなぁ。恋はダイナマイト!!(byラブマシーン)
21/04/09