なんでもないような振りして肩に手を伸ばし、後ろから抱き寄せる。
自分より20センチ以上小さいその身体は、すっぽりと腕の中へ収まる。

ちょうど鼻のあたり、緑がかった黒いネコっ毛のつむじが来て
相手の匂いに肺まで埋もれるように俯いた。

ぎゅっと抱きしめるとびくん、と震えて、それでも怖々とおれの腕に触れてくる。

ユウジは人前でべたべたするのをものすごく嫌がるくせに、
二人きりのときはとても甘えた。

決して口にはしないけど、おれを見上げてくる瞳には
いつもわかりやすいくらい「もっと構って」と書いてある。
もちろん、言われなくてもそのつもりなんだけど。

微笑んでからツリ目を覆う瞼にキスを落とす。
くすぐったいのか、はにかむように上がった口角がたまらなく、可愛い。


無自覚なのかどうなのか、ユウジにはきっと人を夢中にさせる力が備わっている。

それはテニスでもお笑いでも発揮されて、
最初はその鋭い目つきを怖がった人でさえ、すぐに引き込み虜にしてしまうのだ。

…だからこそ。


「(一瞬でも、目ぇ離せんとやけどね)」


油断すれば誰かに攫われてしまいそうな彼を、内心では引き留めるのに必死で。
ようやくこの腕の中に捕まえた、世界に、ひとりきりの相手。

柔らかい唇に口づける。

最初は照れてやたら逃げまわる彼を宥めるのに大苦戦したけど、
いまではじっと大人しく抱き留められてくれる。
顔を離すと今度は向こうから追うように唇を舐めてきた。


「(…本当、猫みたい)」


手のひらで身体を大きく撫でる。
切なげに息を吐き、じっとこちらを見上げてきた瞳は…自意識過剰でなければ
恋の色をして、とろとろに蕩けていた。色をつけるとしたら見るも鮮やかなピンク色。


どっちのほうが相手を好きだと張り合うつもりはないけど、俺は相当ユウジが大好き。
だからずっと一緒にいて、抱き合って、キスをして。ずっと何が起きても守ってあげたい。

そんなことを言えば誰がお前なんかに、と突っ掛かられるんだろうけど。



身体を触っているときに言う、ユウジの「やだ」は本心じゃない。
目は潤んで頬は火照っていて、身体の反応は正直なのに
気持ちいいか聞くと必ずかぶりを振って否定する。

だから…虐めたいわけじゃないのに、つい意地悪をしてしまう。
やがてタガが外れてしまうと、お互いに好き同士のセックスは抑制が効かなくなる。


「…ユウジ、」


俺の眼下に組み敷かれ、達したばかりのユウジは
薄い胸を上下させながら息を荒く乱している。

顔の上に交差させた腕のせいで表情は見えないけれど、目尻を伝う涙は確認できた。
まだ身体は繋いだまま、その唇に優しくキスをする。
すると、反動でユウジの中を刔ってしまい、大きく開いた脚がビクビク震えた。


「っん!…や、動か…っ」

「…あ、ごめん」


言いながらもなお、自身を包む体内の暖かさからまだ、逃れたくなくて。
すぐに抜いて、離れ離れにしまうのがもったいない。

そんな葛藤を察したのか、腕の隙間からユウジが目を覗かせた。


「ーちとせ」


名前を呼ばれ瞠目すると、少し落ち着いてきた息を調えながら
何か言いたげに唇を動かし、また視線を逸らされた。目元が赤い。

ーーー多分、今日のユウジは俺と同じ気持ちのようだと分かっているけれど、
こちらからは言ってあげない。


「なん?ユウジ」

「ん‥、はあっ…」


極力やさしく言葉を促し、汗ばんだ薄い胸を撫でる。
指先が胸の突起を掠めるたび、足のつま先がピンと伸びた。

この行為は俺よりずっと、相手の負担が大きい。
あまり無理はさせたくないと思うから、
たとえ離れたくないと思っても自分が自制して堪えることが多い、けれど。
幸運にも明日は休みで、ユウジも嫌がるそぶりはなくて。


「ち、千歳…、っ千歳」


名前を呼ぶ鼻にかかった声はいつもよりずっと熱を帯びていて、
繋がったままの箇所が再び熱くなる。
いったん欲を吐き出したユウジのそこも、すでに頭をもたげ始めていた。


「ふ、ユウジはいやらしか。…どげんしたいと?」


震える睫毛に口付けて顔を覗き込む。
指で勃起した性器をやんわりなぞるとまた濃く頬を染め、甘い声をあげた。


「あっあ、ち…千歳…、も、っと…して」


あまりに可愛いお願いににやけてしまうのを抑え切れない。
ユウジは自分の言葉が恥ずかしくて堪らないと言わんばかりに懸命に体をよじって目をそらす。
正直もう、限界。


「ユウジ」


無理やりに顔を向けさせてキスをしてから一旦ゆっくり腰を引き、再び深く深く沈める。
ぎゅ、と締め付けてくる内側の感触に一瞬、意識がとびかけた。


「っあ!あ、んぁ、い、やや…っあ」

「…うそ。ユウジは嘘つきたいね」

「…っっ」


ぴしゃりと言い放てば、涙を滲ませて
唇を引き結び真っ赤になったまま、こちらを伺うように視線をさまよわせる。

そのたび可逆心を煽られるのは確か。
ただ 何だかんだ言っても、俺の瞳だってユウジと同じピンク色に染まっているから、
どんな姿だって愛しくてたまらないのも事実だ。


「ユウジ、好いとうよ。ほんとに、すき。大好き」


体を動かすたび繋がる下半身からグチュグチュやらしい音がして、
組み敷いた小さな体がけいれんする中、溢れてくる気持ちをひたすら言葉にする。

泣きそうに歪んだ表情と、ふいに伸ばされた腕が首に巻き付いたのに気付き、にっこり微笑みかける。



「ん、あ、千歳…っ」

「うん、」

「おれも、す…きっ、…やから、ーーー気持ちい…」

「…っ」


自分からそう言わせようと仕組んだハズ、なのに。

恍惚とした顔で薄く開いた唇からその言葉が囁かれた途端、
ギリギリの縁に引っ掛かっていた理性が吹き飛んでしまった。




さいごに吐き出したユウジの精液を手の平に受け止め、
熱くなった体が冷めていくのを少しでも遅らせたくて、きつくきつく抱きしめた。



いつまでも、いつまでも、構ってあげる。
ぜったいに、誰かになんて渡さない。

いっぺん二人の全身が熔けてしまえたら、どろどろに混ざり合ってひとつになれないかな。



END


久々の更新で自分的やりたい放題のチトユウ。ウラと呼ぶにもぬるい・・!
ユウジすきすき千歳は大好物なのですが、中でも好きという気持ちが強すぎてちょっとおかしい?ぐらいの千歳が
とても理想なんです・・というのがやりたかったんだけど、難しい・・千歳ってほんと難しい。
はたから見たら一種病的なまでのカップルでも、お互い好きどうしで幸せならそれでいいんじゃないかな!(投げた)

偶然ですがここのあとがきを書いてるときのBGMがス/ピ/ッ/ツの”猫になりたい”でした・・超イメージソングだよ!笑
H21/07/01