絶対にうまくいかないものだとばかり、考えていたから。
多分きっと、相手よりも俺の方が驚いていたんじゃないかと思う。


「好きや」


端的に告げた言葉に相手はいったん目を丸くしてから、いつものように緩ぅく笑った。



いつからか、なんて分からない。
気付いたら好きで好きで、仕方がなくなっていた。


無意識に目で追う、距離が近付くだけでどきどきする。
これが恋だと確信するまでに、それほど時間は掛からなかった。


自分が抱く、世間一般の「普通」と違う恋情を伝えること。
それは相手を困惑させ、同時に気まずさからただの友達でいることすら
難しくなるかもしれない、そんな大きなリスクがあった。

傍にいることすらできなくなるくらいならいっそ
この気持ちを隠して、友達のままでいようと、そう自分に言い聞かせてきたのに。


あまりにも強すぎるその感情を、抑え切ることができなかった。


こうなれば伝えるだけ伝えて、
駄目になってしまえば諦められる筈、と思ったが故の、告白だった。

…なのに。



「・・・うん。ありがと」


当たって砕けるつもりで告白したのに、
思いがけず受け入れられたときの対応が、咄嗟に思い浮かばなかった。





「お前ってほんと、変なヤツ」


中学卒業も間近の昼休み。
ご飯を食べ終えた中庭のベンチで隣に座り、ぼんやりしてる相手に聞こえるように呟く。

少しして目があうと、千歳はワンテンポ遅れて首を傾げた。


「んー、そうかねえ?」


いつでも浮世離れしたようなフワフワとした態度も
始めのころイライラしてしょうがなかったのに、今ではそれさえいとしい。

…恋は盲目、とはよく言ったものだ。

だらんと垂れた左手を引ったくるようにつかんでにぎりしめる。
一回りほど大きな手の平は少し硬く、自分よりも暖かい。


「…あんさぁ、俺がゆっとる意味、わかっとる?」

「・・ん?」


目線をあわせまいと俯きながら、手の甲をやわやわと撫でる。
同情や勘違いでの気持ちで浮かれたくないのだと、聞くのがすこし怖い部分へ自ら踏み込む。


「好きやねんで、俺。お前のこと。ライクやなくてラブやねん。な、おかしいやろ?」

「んー、うん。・・ん?どっかおかしか?」


逆に問い返してくる千歳は、決して冗談を言ってる風には見えない。
呆れてちょっと黙り込み、溜め息をつく。


「…やから、俺も男でお前も男やん!普通やないやろ」

「えー、やけど嫌われっちょるより、好かれとるほうが嬉しかー」

「……いみ、わからん」


他意のない笑顔と、
埒の明かない押し問答に眩暈がする。

本当にこんな、なんでもない時間を共に過ごしている今でさえもまだ、
友達以上の関係になった という事実を思い出すだけで嬉しくなる。

なのに。

何か…少し、物足りない。
そう思ってしまう自分は、贅沢すぎるのだろうか。


掬い上げた手を自分の方に寄せる。
見上げる相手は、ただ黙って俺の動向をにこやかに見守る限り。

俺はそのまま、手に取った指先をぺろ、と舐めた。


「・・・っ!、ユウジ」

「・・・」


ようやく聞こえた慌てたような声を無視し、唇に押し当てた中指を口内へ迎え入れる。
舌を絡めてちゅっ、と吸うと、初めて千歳の頬っぺたが僅かに赤く染まった。

それを見てにぃっと笑えば、同時に困ったように両眉を垂らす。


「俺は、こうゆうこともしたいん。OK?」

「・・・う、うん」


動揺しながら強引に引き攣った笑みを浮かべ、それでも
千歳は、俺の手を振り払おうとはしなかった。


調子に乗った俺は、そのまま指を舌でねっとり舐め上げる。

でかいからだがぴくん、と震えて「っん、」と短く息をのむ声。
細められた目は、嫌がっているようすはない。
むしろ、なんていうか。


・・・あ、アカン。なんや、ホンマに興奮してまう。


さすがに学校で(しかも野外で)これ以上やるわけにいかない。
強引にテンションの下がることを考えて(家庭科の幼稚園実習とか)気持ちを落ち着かせる。


「ゆ・・、ユウジ」

「…ーあ、おん?」


ようやく手を離すと、少し掠れた声で名前を呼ばれる。
ここから見える千歳の表情はもうはやいつもの通り、あまりにも感情が読めなくて。

さすがにやりすぎたか、なんて今更思い、なんと言って
弁解しようものか考えていると、不意に視界が暗くなる。


「…、っ!」


いつの間にか俺のほうを下から覗き込んでいた千歳は、
いきなり唇に触れるだけのキスをした。


「…そげん、やらしかことしたらいかんよ、ユウジ」

「……へ、え?」

「……わ、分かっとる、よ。好いとうって。けど、物事には段階っちゅうのがあるきに、その、」


言わんとしていることは大人なのだが、
いかんせんさっきから視線が定まらず妙に早口な千歳は
普段の姿からは想像もできないぐらい動揺していて、おもわず噴き出してしまう。


「…っぶ、はは」

「ーーー笑い事じゃなか!」

「・・っごめんて、ごめん!そんなん言いながらお前いまキ」

「わっ、わっ!い、今のはその…つい」


すまん、なんて言いつつしだいに尻すぼみになっていく声に、
でかくて大人っぽいくせ、見た目に反して中身は意外と初心なことを知る。

こいつ相手に使う表現じゃないかもしれないが…ちょっと、かわいい。

しかし…ということは。
どうやら好きだ好きだ と思っているのは俺だけではなかったらしい。

まさかこんな形でファーストキスを奪われるとは、さすがに思わなかったけど。


ああ、でも、ほんとに。


「はは、やっぱし好きやぁ。お前のこと」

「……うん、俺も。」


肩にとん、ともたれ掛かると、千歳は少し身じろぎして俺を見たあと
赤い顔をしたままで、さっき俺が舐めたほうの左手をじっと見つめていた。

しばらくは自分の手を見るたび、思い出すのだろうか?
俺のことや、さっきのこと。

早く、思ってほしい。自分から俺に触れたい、と。
いっぱい愛されたい、愛したい。

どんどん欲張りになっていく自分に驚きながら、でももっと
どろどろになるまで甘やかしてほしい。



いろんな矛盾があるかもしれない。
もちろん、苦労や困難だってあるだろう。

けれど大切にしたい、と思う。
止め処なく湧き上がる、この気持ちを。



「たいが好いとうよ。ユウジ」



言葉を促すと千歳は少し恥ずかしそうに、
けれどはっきりそう言って笑った。



ちょっとズレたたとえ話
END

ガチなユウジ&天然な千歳でちとユウを…と思ったら
なんだかヘタレ攻な千歳もえ!!v(゜∀゜v)ていうのばかり際立ったような気がしないでもない・・・。
べつにこれユウジビッチ設定じゃないつもりなんですけど、すごくそれっぽいですね・・なぜに・・・^p^?
好き好きすぎてはやく先に進みたいユウジと、好きだけど何をどうやって愛情表現すればいいか
分からない千歳。みたいな…?ユウジに翻弄される千歳も好きなんですううう
10/02/22