いくら大人びているとか落ち着いてそうとか言われても、中身は普通の中学生。

当然ながら、好きな相手が無防備に傍にいたりするとこう、
沸々と込み上げてくるものがあるわけで。



「ユウジに触りたかー」

「…!?っな、」


いきなり、目の前で裁縫をしていたユウジが顔を上げた。
糸を通した針と縫いかけの布が膝に落ちる。

えっ、と思い首を傾げると、相手の顔が変なふうに歪むのに気づく。
まさか。


「…もしかして俺、声に出しとったと?」

「…」

黙ってこくこくと頷き、ユウジはあぐらをかいたままジリリと後ずさる。
しまった…最悪だ。心の声がつい口から出てしまったらしい。
なんと言い訳しようか悩んで、いやでも正直な意見だし、と開き直ることにする。

付き合いはじめてしばらく、未だ数えるほどしか触れたことのない
ユウジの体は、さっきより更に遠くへ移動してしまった。
警戒心剥き出しの視線に、心が折れかける。


「…お前、」

「ん?」

「いっつもそーゆう目ぇで俺のこと見とんか」

「ーえ!?ーーっち、違う違う!」


じとり、と見つめる目は疑心に満ちていて、俺は慌ててそれを否定する。
そりゃあたまに、ふとした弾みでそういうことを想像…否、妄想してしまうことはあるけれど、
常日頃そうなのだとでも思われたらたまらない。

ユウジはしばらく無言で、もう一度その場に座りなおすと再び裁縫の続きを始めた。
お笑いライブで使う道具らしく、小器用な指先はただ一枚の布きれを見る間に作り替えていく。

俺はこれ以上よけいなことを言わないよう、黙って作業を眺める。


別に、いつもいつもユウジに拒否されてるワケじゃない。
人前でなければギュッとしても怒らないし、ふたりの時は向こうからキスしてくれたりもする。

気分のムラっけがあるのは確かだが、
多分…それだけではなくて。


「(……俺が足りん、ち思うとるだけかね…)」


はっきり言って俺はユウジのことが相当好きだ。かなり好きだ。
四六時中くっついてたいし、キスしたいし、えっちなこともしたい。

もっともっと今以上に、スキンシップをとりたくて仕方ない。


決してユウジの自由を奪いたいわけじゃない。
束縛したいわけでもない。

ただ俺の目の届かないところで何をしてるか、までは把握できないのだから、
せめて一緒にいるときは、一人占めしてしまいたい。
俺のことをもっとずっと、考えていてほしい。


「(なんて…言うたらまた引かれるったいね、絶対)」


きもいとかウザイとか、またえげつない単語が飛んできそうだ。
ユウジはあまり俺に対する感情を表に出さないから、
どうにも自分ばっかりがっついてる感じになりがちだ。

ため息をつき、無意識に相手へ吸い寄せられそうになる視線を
なんでもないふりで強引に余所へと反らした。すると。


「…ッ!なん、っちゅう顔しとんねん!」

「…っ!」


グイ、っと腕を引かれ、慌てて踏みとどまろうとするも間に合わず、
バランスを崩した俺の体は小さなユウジにもたれ掛かる。

ユウジは「うっ」と呻きながらも、しっかり俺を抱き留めた。
それから勢いよく片手で顎を掴むと、歯がぶつかるぐらいの速さで唇にキスをした。


「んん…っ!?」


すぐ間近に、閉ざされたツリ目の一重瞼があって、
舌を突っ込まれて口内をぐちゃぐちゃと掻き回される。
かあっと頭に血がのぼると同時に、その小柄な体をギュウッと抱きしめた。


「…っふ、お前だけや、ないっちゅうねん」

「・・・ん?」

肺いっぱいに広がるユウジの匂いにくらくらしていると、離れた唇から小さな呟きが漏れる。
腕の中にいるのはいくら小さくても自分と同じ男の体なのに、こんなにも可愛くて、愛しい。

言葉の続きを促すとユウジはムッと頬を膨らまし、俺の肩口に顔をうずめた。


「ゆ…、ウジ?」

「俺かて…千歳に、触りたいし…」


ぽつりと囁いたあと、照れ隠しなのか俺の肩にがぶっと噛み付くユウジを
めいっぱいの嬉しさと愛情を込めてもう一回、きつく抱きしめた。


「うん…そういうの、もっといっつも言うて欲しか」

「い、言えるか!んなもん、恥ずい!」



照れ屋でツンツンしてて、素直になれない子だけど、やっぱり俺はユウジが大好き。



久々のちとユウ文。
ちんまりしてるユウジにムラムラしてる千歳と、それに気付いてるし応えたいけどどうしたらいいのか
分からないユウジ。まあ、いわゆるバカップルってやつですよ・・・。
余裕のある千歳もいいけど、どちらも対等なちとユウもかわいいな!っていう話。
H22/09/14