※注:悲恋ネタ含みます※




すっかり春めいてきた今日の日。
卒業式のリハーサルをぐだぐだ終えた、この日。


おれは決定的に「失恋」した。


よく晴れたいい天気、青空の下で。
これからも普通の友達でおろう、なんて。

あんな真面目な顔と声音で言われてしまったら、
もう立ち向かう気持ちもなくしてしまった。あれはまさに最終宣告。


まわりからすれば「あぁまた今日もユウジがフラれてるわ〜」
ぐらいにしか見えなかっただろうし、
いつもと変わらない笑い話みたいにしか思えなかったはず、だけど。


おれには分かってしまった。
ああこれマジやわ、冗談ちゃうわ ・・・って。

それなのに、反射的に浮かべられた作り笑いに、
自分でもちょっと驚いた。



明日の卒業式がおわればみんなバラバラの高校で、
いまみたいに毎日会うこともなくなる。


絶交だの、もう二度と会わんだのってゆわれたわけじゃないんだから、
これからだって会いたいと願えば会える、けど。


ーーーだけど、
これまでとはかわりすぎてしまう。
何もかも…すべてが。


ギム教育に未練があるわけでもないし、テニスも続けられるし。
高校生になるのだって楽しみなはず、なのに。

中学の卒業は同時に、あんまりにも大きな代償を引き換えにした。



頭の一カ所にすっぽり穴が空いたように真っ白。
誰かに慰めて欲しかったのかな?

でも逆に「元気出せ!」とかって励まされたら、切れて殴りかかってたかも。
お前におれの何が分かるんや!…って。


うん分かってる、めっちゃ矛盾してる。



だから無意識に放課後、
きっと一番黙っておれの話を聞いてくれそうな相手の名前を呼んだ。


いや。

ほんとは、
他の誰かに何かゆわれてこの失恋が現実だと肯定されてしまうことが怖かったから。

無意識でなく、おれは深層心理的に逃げをうった。
なんて弱い、なさけない。心が折れそう。



「…可笑しいかもしれんけどな、ほんまに好きやってん」


こういう話をするときは屋上で、ってのがお決まり。
気の早い春の風が時々ぶわあっと吹いて、知らず目が細くなる。

下にあるグラウンドに舞う砂埃から視線をずらすと
三年間ほとんど毎日通ってた部室とテニスコートが見えて、
漫画みたいに心臓がずきんと痛んだ。

涙は未だ、出ない。へんなとこでおれの涙腺ってかたい。


黙って相槌だけうってくれるだろうと見越した相手は、
午前中のリハーサルが終わるころ唐突にふらっと現れた。
最後の最後まで、放浪癖は直らなかったらしい。

この分だと多分、明日の卒業式に出るのかどうかもあやしい。
…正直、おれだって明日がくるのは怖いけど。いろんな意味で。


錆びた鉄柵に肘をのせて頬杖をつくおれの少し後ろに、
今日の天気のように穏やかな顔をした千歳が立っている。


中学の途中から急にやって来たこいつとは、
本当に必要最低限ぐらいしか話したことさえないかもしれない。

聞くところによると、
なんの因果か、部内で同じ高校に進むのはおれたち二人だけらしく
…だからってこともないけど、今こうしている。

いきなり屋上なんかに連れてきたおれに文句のひとつも言わず、
強風に傾ぎそうなぐらい無駄な長身は、全く揺らがずそこにいた。


「…なぁ、やっぱオトコがオトコを好きになるんておかしいんかな?」


くるりと向き直ってじいっと見上げると、
千歳は一瞬目を瞠ってから困った顔をして、小さく「うーん」と唸った。
そりゃあそうだ、んなこと聞いても分かるわけないし、しょうがない。

こういうときに、更に「そんなことないって」みたいな同情めいたセリフを
言われるほうが、おれ的にはずっと腹が立つ。



友達として、親友としての関係を、
いつの間にかはるかに飛び越えた感情を抱いてしまったのは、
他でもないおれの責任。

届かない片思いだと本当はわかっていたくせに、
最後には笑って、いつも曖昧にごまかして。

今日はそんな煮え切らない思いについにピリオドが打たれた、
それだけのこと。

まさか じゃなかった。

頭のすみっこでは分かっていた、
いつかそんな時が来ちゃうんだろうな、って。
・・・なのに。


「もしかしたらって、1ミリぐらい期待してもとってん。アホやろ?」


まあそれもさっきゼロになってんけどな、込み上げる自分への嘲笑。
千歳はウソくさいフォローもいれず、黙ったまま困ったような笑い顔を浮かべている。

わかってたつもりでいても、
いざ現実に訪れてみると、”別れ”はあまりにも衝撃が強すぎて。


意識してわざと冗談みたいに装っていたのは確か。
でも、本気だった。


生まれてはじめて抱えた、どうにもならないほど熱い 恋の感情。

勝手に想って、散った恋。
叶わなくても気持ちは伝わったはずだと、信じてたい。
たとえそれが他の誰に理解されないものだとしても。


そして、おれはひとつ 心に決めたことがある。


決意表明を聞いて欲しかったから、わざわざこうして他人を巻き込んだのだ。

頬から手を離して、身体を半分捻って振り向く。
目の前の千歳はまだ何か考えてるような顔で、対したおれはきっとすごく無表情。



「けど絶対、引きずらへん」


きっぱり口に出してしまえば、
胸につっかえてた重苦しいものが半分ぐらいどっかに出てった気がした。
あとの半分は…、さすがに今日中に消化するのはムリっぽいけど。


おれはこの恋を忘れる気はない、
でも 悔やんだりしない。

いつか笑ってイイ思い出だなんて言えるときまで封印しておく。
それだけ。
決心が鈍らないよう一気に言い切ると、長身の同級生は目をまるくしていた。


「…なんか、かっこよかね」


ほぅっと漏れるた音らしき感嘆の声に、黙って照れる。
単純なおれはすかしてフフッと笑い、もう一度地面を見下ろす。


まだ全く色づいてない桜の木が綺麗に咲く頃おれはどうしてるだろう?
テニスは続けたいなぁ。
高校に行ったらちょっとは身長のびるかな。

見えない未来にぼんやり思いを馳せていると、
千歳はおれの隣に来て後ろ向きに手摺りに凭れかかった。
すぐ横にくるとほんとにデカイ、柵の位置が全然違って見える。


そういえばこいつはどうするんだろう、テニス。
確か夏に退部するのしないの言ってたっけ。

じっと向けてた視線に気がついたのかどうなのか、
千歳は小さく笑って口を開いた。


「ユウジ、泣かんの?」

「…はっ??」

「悲しいときは泣いたら良か」

「…」


急な質問に目がテンになる。

なんで今このタイミングでそんなこと言うのか。
ぽかんと口を開けてまじまじ凝視しても、相手は平然としている。


…そうそう、こういう奴だ。
第一印象は総評して「よくわからない」奴。
間違いじゃなかった。

確かに悲しい…とは、思うけども。


「…なんでおまえの前で泣かなあかんねん」


びし、と左手で胸下に突っ込むと、千歳はまた少し笑った。
…へんな奴。
まぁ、こいつなりに気をつかってくれたんだろうけど。


「人前で涙は見せへん。…男の子やから」


なんとなく礼を言うのをためらって突っぱねるように言うと、
にこにこ笑いながら黙って髪をくしゃっと撫でられた。

やたらと子供扱いされてるようなのにムカついて、顔を顰る。
それからわざと、大声を出すべく息を吸い込む。


「あーあ、誰か攫うてってくれへんかな〜」

「ん?」

「よう言うやん、傷心の時ほどおとしやすい女はおらんてー…おれ男やけど」


今ならお買い得やのに、なんて冗談でうそぶく。
ほんとは当分の間、ほかの人を見る自信も余裕も、ぜんぜんないくせに。

そしたら千歳はツッコミも返さず、
さっきみたいにまた「うーん」と低く唸った。


「ーってなに悩んどんねん」


冗談やがな、と言おうとした時。

急に視界が暗くなって、
えっと思う前に体がズシっと重くなる。


何事かと考えるまでもなく、
後ろから…
上から、覆いかぶさるようにのしかかられている。


ポジティブに言えば抱きしめられているんだろうけど、
おれにしてみれば、完全に上から押し潰されてる感じ。

思わずんぐっ、となんか変な声が出た。
ちょっとコレ、何の慰めにもなってないって!


「なん…!ちと」


「それなら、おれが貰うたるばい。ユウジのこと」


耳元に届いたやわらかい声に驚いて顔をあげると、
微笑を浮かべた千歳と目があった。

何故だか瞬時に頭がカッと熱くなって声をなくす。

…なあ。
やけに真剣味を帯びているように見えるのは、気のせいか?


「……ちょ、ギャグならもっとそれらしい言うて」

「うん?ウソじゃなかよ」


背中にのしかかかる体から伝う相手の心音は標準そのもので、
なんだか一方的におればっかり動揺してるっぽいのが悔しい。

意味分かってやってるのか、どうしょうもない天然なのか、どっちだ。


髪に埋もれてる顎とか、
目の前で組まれた大きい両手のひら。

がっちりホールドされて視線をあげられず、じっと千歳の手を睨みつける。


「…人の話聞いとった?そない簡単に忘れるやなんて、一言もー」

「けど一緒におったら、気持ちも変わるかもしれんけん」

「…」

「おれが、そばにおったるけん」


優しい声音に掻き乱される、心の中のなにか。
千歳のその声が同情なんかじゃないと分かってるから、よけい泣きたくなった。
空がまぶしいせいだ。


「なぁ、こっち向いて?ユウジ。」






空模様
END

完成直前で止まってしまってたチトユウ?をようやく終わらせました・・そのせいで卒業シーズンを逃した!orz 
すみません、出だしっからコハ←ユウ前提&悲恋の流れで…!(汗
千歳に友情以上の感情があるのかないのか、をあえて曖昧にしてみたり。
傷ついてるユウジをたすけてあげたい、という一心の千歳 ということでひとつ(?
見てくださった方が自由につづきを思い描いてくだされば嬉しいです。投げっぱなしじゃないよ、ほんとだよ…(必死
ごめんね、ほんとは幸せなコハユウも好きなんです。今回はこんなのでほんとごめんね、ラブルス。
BGMに奥/華/子をもってくるとベストです。千歳弁うまくなりたいです。
08/4/22