ふいに視線を寄越すと完全に目があった。
二人きりのこの状況、先にそらすのは何だか不自然なように思えてじっと見つめる。

しばらくして、先に根をあげたのは相手のほうだった。


「…なに見てるんすかさっきから」


いつも以上に投げやりに、淡々と財前が言う。


「別に…」


ほんとに意味もなにもなかったから、言い訳する理由もなにもない。
そう言うと、ひとつ下の後輩はむっとしたように眉根を寄せた。


「ーキスしたりましょうか」

「うん…えっ、」


抑揚のない言葉の意味を理解して面食らう。
驚くおれをよそに財前は平然としている。


「…なに言うてんねん、いきなり」

「せやから、したりましょか?」

「ってかなんでお前はいっつもそないな上から目線やねん」


前々から思ってはいたが、
いくら相手が毒舌キャラで通っているといっても、おれに対する言葉は一際ヒドいと思う。
仮にも、いや事実おれは財前より年上で先輩で、しかも…キスとか、する仲なのに。

そんな思いを知ってか知らずか、
財前は立ち上がりさっきより一歩こっちに近寄ってから座り直す。
下から覗き込まれて映ったマジ顔に、葛藤も忘れて心臓が少し跳ねる。


「先輩にはこんぐらい強引に出てちょうどええんですよ」

「…はぁ??」

「もし全部あんたに委ねとったら、話が前向いていかんでしょう」


ヘンなとこで先輩ウブやから。ずばり言い切られて、反論もできない。
確かにそれはそうで、強制的に決断を迫られるのは好きではない…だけど。


「せやけど…なんかもうちょっとぐらい気ぃつこたり、優しゅうしてくれても…」

「ー何を女子みたいなことゆうてんすか。キモい」

「!ほらそれや!ぼろくそやん!」


一人紅潮してイーッと怒ってるおれと、それを嫌そうな顔ではいはいって聞き流す財前。
…ああ、なんでおれはこんなイケズなやつと一緒におんのやろ?
ときどき疑問に思うのを通り越して悲しくなってくる。

悶々と悩み始めていると、いきなりグッと肩を掴んで前を向かされる。
無表情な相手の真っ黒い瞳の中に少し苛立ちの色を見つけて、おれは口を閉ざした。


「ええからもう、黙ってくれません?萎えるんですけど」

「……好かれてる気まったくせぇへん」


強い口調で言われて目を瞠り、薄く息を吐く。
思わず零れた本音ごと、唇で塞がれる。
ついびくっと揺れた肩に、鼻で笑う気配。…悪かったな、いまだに慣れてなくて。
また眉間に皺がよる。

財前の体温はふつうより低い。
でも、唇は標準の温度…他と比べるアテはないから、多分。
最初はお互いの薄い皮膚を重ねるだけの触れるキス、それが少しずつ、深くなっていく。

やらかい舌がぬるりと入りこんできて、口の中を好き勝手に掻きまわす。
思わず、ぎゅっと目をつむった。


「ン…、っ」


直接言ったことは一回もないけど、財前とのこういうキスは、好き。
理由は単純に…気持ちいいから。

それは性的な意味だけじゃなく、精神的にも。
他人どうしの自分たちがこの瞬間、ひとつに混ざってる。
誰が最初に思いついたか知らないけど、これって結構すごいことじゃないかと思う。


「…先輩、」


合間に呼ばれて、少しだけ力が抜ける。
肩を掴んでいた財前の左手がおれの後頭部に回され、髪の毛をやわやわと撫でさする。
唇は子犬が甘噛みしてくるようなやさしい重ね方。

…これ、こんな時ほんの少ーしだけ、愛されてるんかな?とか、感じられる。
だからおれも舌を絡め返しながら、両手をのばして財前の首を引き寄せる。

ふいに、くっついた胸から、いつもより速く打っている心臓の音に驚いて目を開ける。
すると。


「…・・・っ!」


すぐ目の前にある財前の顔はいまだかつて見たことがないくらい赤く染まっていて、
おおきく見開いた瞳を認識したとたん、迫ってきた右手の平で両目を塞がれた。


「んぐ…っ!!」


真っ暗になった視界に動揺する間に、キスしたまま仰向けに押し倒される。
そのまま頭をぶつけると思ったのが、財前の腕に抱え込まれて振動を回避する。

弾みで唇がはなれ、急に入ってきた空気に軽く噎せ込む。
その間も、おれは目隠しされたまま。


「…ちょ、何やねん!手ぇはなせ」


怒りながらなにも見えないことに怯えて声が震える。
手探りで顔を押さえてる右手をつかむけど、びくともしない。
財前はなにも言わず、なにを考えてるかも分からない。


「ざいぜ…っ」


名前を呼びかけたとき、首筋をつぅ、と濡れた感触が走って息を飲む。
舌だと理解するなり今度はそこにカプ、と噛み付かれて体が跳ねた。


「…っ!いだっ!」


財前の尖った犬歯が首の薄い皮膚を噛んでいる。かと思えば
そのままぴちゃりと舐め上げられて、おもわずヘンな声が出そうになるのを
唇を噛み締めてなんとか堪えた。


「…センパイ」


突如、耳元で囁かれ、また体がびくんと揺れる。
こんな状況でも久々に聞いた気がする財前の声に、どこか安心している自分。
…ばかだ、と思う。


「おれ、先輩のこと好きっすよ?」

「…、」


熱い、吐息まじりの言葉は、告白されたとき以降
ほとんど聞くことのなかったせりふだった。


「せやから…これからもっと、愛したげます」


見えない向こうで怖いくらい綺麗に笑う財前の姿が見えた気がする。
どくんどくんと、血が沸騰してくような感覚に軽い眩暈を覚えた。

知らなかった思いを知ってしまった今、もう後戻りなんてできないのかもしれない。
けど それもいいと思う。


「…なぁ。もっかい好きって言うて」


半笑いでねだると、財前は唇にキスをおとし「ウザイっすわ」とイヤそうに言った。






視線が絡んだ一瞬
END
あれ…甘くしたかったのになんでこんな、薄暗い…?汗 そしてこれ場所はどこなんだ一体。
ただ単にキスしてがっつく財前を必死にたしなめるユウジの話が小難しい話にかわってしまいました。
ほんとごめん…薄暗いの、好きなんだ☆(聞いちゃいねえ)
中2×中3のお話なので、最後あんなんだけどキス以上はまだしてません!な設定です、一応。
せめてユウジが高1になってから…え?それじゃまだ財前は中学生?
財前はそういうのませてそうだからいいんですぅー(-ε-)(誰かこいつを殴って!)
でもこのまま流れであれよあれよ、ってのもいいですよね。…誰か書いて下さい(ぶん投げた)
20/5/16