しいて言うなら夏のクソ暑さのせい、
付け加えるならただの好奇心の仕業だった。

そこにいるのがあの人だと気付いたとき
(というよりも中からさしてうまくもない鼻歌が聞こえてきたとき)、
気付けばおれは静かにカーテンを開けていた。

所謂、不法侵入?



目の前には頭からシャワーをかぶっているユウジ先輩のうしろ姿。
どうやらまだ、すぐ後ろに立つおれには気付いてない。


当然ながら服なんて何も着てないから、生まれたままの姿なわけで。
人知れず自分の喉が小さくごくりと鳴る。
…改めて自分はホントどうかしてる、と思った。

自重?ここまできたら知るもんか。


そろりと一歩を踏み出す。靴は脱いでいるから足音もたたない。
汗ばんではいたものの乾いてたユニフォームに
シャワーの水滴が飛び散り、まだらに染みを作る。

裸の先輩は、まだ気がつかない。
へたな鼻歌が続いている。…どんだけ鈍いんだ、この人。
こっちとしちゃ好都合だけど。


ふいに俯いてた顔をあげて、
シャワーを顔面に浴びだした。

跳ねてくる水はぬるくもない低温なのに
足の裏に伝う温度がやたら高く感じるのは、
ーーおれが妙に興奮してるせい…か?

動かした肘に張り付いた湿ったカーテンの感触が不快。
でももう今更とめられない。

伸ばした腕で、水に濡れた華奢な肩をガッと掴み、強引に振り向かせた。


「ーー…ッっ!?!!」


これ以上ないってほど油断こいてたであろう相手は、
大きく体をびくつかせてかなり呆気なく、おれのほうに向け体を反転させた。

あまりに驚きすぎて声もでないらしい、まん丸になった両目と口に思わず笑ってしまう。


「…あんた、アホ面すぎ」


相手に近づいた故にシャワーの蛇口から
絶え間無く降ってくる水でとっくに自分もずぶ濡れになっていったけど、
そんなのどうでもよかった。

まだ動けずにいる裸の体を両腕で抱き寄せ、首筋に口づける。
カルキ臭い水道水の味と、微かに、先輩の匂い。


「ーーな…っな、なん…」


弾かれたようにようやく発した言葉はもはや単語にすらなってない。
動揺し過ぎだ、馬鹿すぎて…酷く、可愛い。


「先輩んこと襲いに来ました」


淡々と答えて、肩口から離れ
ようやく正面から顔を見上げる。

開いた唇は羞恥でなのかわなわなしてて、頬っぺたは真っ赤。
水に濡れた前髪や睫毛はいつもよりいくらか扇情的に見えて、こっちまで少し戸惑った。


逃げ場を壁とおれに阻まれて半ば呆然とする先輩の顔を、
両手で挟み唇に軽くキスをする。

口の端についた水滴をわざとやらしく舌で舐めとると、
先輩は大袈裟なくらい全身を震わせた。
頬にかかる長い髪をそっとつまんで耳にかけてやる。


もっと怒り狂うのかと思ってたけど、
正面にいる相手はやり場に困ったように目線をうろうろさ迷わせるだけで、
おれを突き放そうとはしない。ふ、と笑いが漏れる。


「…先輩、欲求不満ですか?」

「ーッ誰がやね」


噛み付く勢いで反論しかけたそのタイミングで、
すでにかたちを変え始めていた相手の性器にふれる。
途端、息を飲んで固まってしまう先輩。

構わず利き手でやわやわと擦ると、さっきまで
だらしなく垂れていた腕がおれの湿ったユニフォームをわしづかみにした。


「っあ、」

「ーーやっぱ欲求不満やないですか」


もう、こないにして。
茶化すように笑えば、唇を噛み締めながら涙目で睨まれる。
残念ながらちっとも怖くはなく、むしろ逆に煽られて逆効果。

引き結ばれた口にもう一度キスを落としてから俯く。
視線の先、おれの手の中にある先輩のソレは、すでに先の方が
水以外のねとつくもので濡れはじめていた。


隠すものも暗さもない場所で直視するにはあまりにも
エロくて、また無意識に喉を鳴らす。

同時にシャワーで濡れてへばり付いた短パンの中で自分の性器もどくんと脈打つ。
…これで触らずに先にいったりしたら、人のこと言えた義理じゃない。
慌てて腰のあたりにぐっと力を込めた。


黙ったまま親指でぬるぬると
先端の汁を塗り込むように動かすと、ようやく先輩の手がおれの腕を掴んだ。


「…や、イヤや、財前…っ」

「ーとめんの遅ないすか?」

「っ知らん、離せー」

「ー…ほな、このまま帰るんですか?」


言いながら手中にある性器を上下に軽く揺する。
びくっと肩を震わせて息を吐く相手をよそに、ぱっとそこから手を離した。


「…ッあ、!」


支えを失っても勃ち上がってるソレは一目瞭然で、
こんな状態じゃあ家に帰るどころか部室にも戻れないことぐらいさすがに分かるだろう。

狭い個室に訪れる沈黙、出しっぱなしのシャワーの音だけが響く。


「………っ、」


息を切らし黙り込む先輩の顔は赤くて、
恥ずかしさで目の縁に盛り上がる涙がはっきり窺えた。

自分でやったくせに何だがかわいそう、
かわいそうで、すごいかわいい。


ーーうーん おれ…病気?



「あっれ、誰かおんのー?」



急に聞こえてきた呑気な声に、二人そろって竦み上がった。

心臓が倍速の早さで鳴りはじめ、
平気そうな表情をつくりながらもさすがに内心はひどく焦っている。


「…っ、ぅー」


前にいる先輩はまた薄く口を開けて、ほぼ半泣き状態。
うっかりすると鳴咽さえ漏らしそうな顔に、
外の様子を気にしながらもそっと触れるだけのキスをしてあげる。


「ー泣かんでください」


小声で囁く。
この人の行動や言動はひとの加虐心を刺激することが多いけど、
こっちだって別にいじめたいだけって訳じゃないのだ。


何にしろ今のこの状況を見られるのだけは非常にまずい。

二人一緒にシャワールームに居ること自体おかしいし、
なによりおれは服のまま水浸しだし、ユウジ先輩はもう…、あれだし。


聞き耳をたてながらこの場をうまいことやりすごす方法を考える。
さっきのあの声は謙也さんだ、一人だけなら…何とかなるかもしれない。

固まってしまっている先輩の口に人差し指を一本押し当て、静かにするよう伝える。
すると相手は子どものように素直にこくんと頷いた。



「ああ、おれっすけどー」


すっと息を吸い込み、平静を装って姿の見えない相手に話し掛ける。


「あ、光か。他は誰もおらんの?」


微妙にスレスレな質問をされて、思わず正面の先輩と見つめ合う。
いなくはない。
けど言えるわけもない。
まさかあの人気付いてる…?いや、なんてこともないだろう。


「…誰もおりませんよ」

「ふーん、ほな隣行ってもええ?」


暑うてしゃーないわ、
なんて至極当然な流れで謙也さんが尋ねると、
ユウジ先輩がギクッとして肩をすくめ、おれに拒否を示すように首を横にぶんぶんと振った。


「(…そうは言われても、な)」


おれらの横のシャワーは空いてるのに、
あの人に来たらダメだと言う理由なんてひとつもない。

困って眉を寄せ言葉で宥めるかわりに額にキスをすると、
先輩は泣きそうにくしゃりと顔を歪ませた。
ユニフォームをつかむ手に力がこもったのが分かる。


「光ー?」

「……っあ、ハイ、ええですよ」


慌てて返事をすると、ほなあとで行くわと聞こえてしばし沈黙。
どうやら、部室になにかを取りに戻ったらしい。
これでとりあえずは安心。

ふぅ、と息を吐くと、いままで大人しくじっとしていた先輩が
急におれの胸あたりを力いっぱい押し返してくる。

なにかと思い顔を見ると、
目をそらしたままか細い声で「出てって」と言われた。
思いがけない申し出に目を瞠る。


「…い、いまのうちに、早う…」

「ーそらええですけど…先輩どないすんですか?」


視線をおろした先のそれは少しも萎えてなくて、
ついついじっと眺めていると「見んなや!」と叫んで手の平で強引におれの顔を反らさせた。

さっきまでのしおらしさはどこへ行ったのかと眉間に皺を寄せると、
ぽつりと何か言おうとしているのに気付く。


「……から、いい」

「え?」

「ー…じ、自分で、やるから」

「………!」


予想してなかった台詞に驚いてすぐに顔を覗き込むと、
今まで以上に目許を赤く染めて、拗ねたように唇を尖らす先輩の姿。


ーー何だ、この感じ?

気付いたときには目の前の人を思いきり抱きしめていた。


「ーーーアカンてもう…、先輩…やらっしいわ」

「っ!お、なっ…や、やらしいんはお前やろが!死なすー」


悪態をつく口をキスで塞ぎ、舌で中を掻き回す。

くちゅ、と濡れた音をたてて唾液が交ざり、
ちょうど同じくらいの高さでぶつかり合う股間辺りの熱さに、互いの限界を感じた。


「んん、ーーふっ…?!」


唇はそのままで、手早く二人分の性器を重ねて両手でぎゅっと握りこむ。
先輩の目が見開かれるけど、もう余裕も、残された時間もない。

がくがく震えて今にもへたりそうな相手の脚の間に
無理矢理膝を割り込ませ、なんとか体を支える。

背中に回された腕が必死に縋り付いてくるのを察知して、少しだけ顔を離した。


「…一人でなんか、せんでええですよ」


ぴくん、と揺れた睫毛がえらくかわいく見えて、薄笑いが浮かんだ。
あ ダメだ、おれはもうとっくにーー。


「ーあんたにはおれが、おるでしょ。先輩」


手の平に伝わる二人の熱はいまにも熔けそうに熱く、
水音にまじってどちらもの先端から出た液体がぬちゃぬちゃ卑猥な音をたてる。


「ンー、う、んむ…ッ」

「っは、」


唇をあわせ両手でそこを擦りあわせて扱いて、
見えてきた高みに一気に上り詰めていく。


「ん……っ!」


一際大きく寄せあった体が痙攣して、先輩が先に達する。
あたたかい粘着質の感触が太腿に飛び散ると同時に、おれも一息に射精した。


「ーっ、はぁ、…」


二人分の濁った精液は足元を伝って流れ落ち、
出しっぱなしのシャワーに巻き込まれすぐに排水溝へと消えていく。
それがなんとなく寂しくて力の抜けた先輩の体をまた抱きよせる。

するとシャワーの当たらない濡れた性器どうしがぐちゅ、と合わさって
思わず「うわぁ」と言うと、ついに先輩の左手がおれの頭をパンとはたいた。



結局そのあと、謙也さんが戻る前にユウジ先輩が
ダッシュで先にシャワールームから出ることでことなきを得たー…
…筈だったのだが。

うっかり自分が勢いでユニフォームごとずぶ濡れになっていたのを失念していた。


外に出てきたおれを見て、まさかのびしょ濡れ着衣姿に唖然とする謙也さんには
「ただのウケ狙いです」とか苦しすぎる言い訳をしておき、
深くツッコまれる前に急いで制服に着替える。


部室から出ると扉の真横にぶすくれたまま座り込む小さい先輩の姿。
すくっと立ち上がった途端、大声で罵られた。


「ホン…ッマ有り得へんわ、変態財前。変・態!」

「ー往来でその呼び方やめて下さい。ええやないですかバレへんかったんやから」


帰り道に並んで歩きながら軽いノリで言うと、キッと睨みつけられた。
そうやって怒りながらもおれが出てくるまで待っててくれたくせに。

口に出さない惚気に一人でニヤけそうになっていると、
いきなり眼前に両手の平を突き付けられ、思わず立ち止まる。


「見ろやコレ、シャワーあたりすぎて指先しおしおやーっちゅうねん!アホ!」


確かに、先輩の指はプールで長いこと泳いだあとみたいにふやけていた。
……いや、言いたいのはそんなんじゃなくて。


「ーーおれがやったコトに対しての怒りやないんすか?」

「…はっ??」


真ん丸になった目を見て、つい噴き出してしまう。


「ねえ、たまにはああいうのもええでしょ?スリルがあって」

「……ッ!」


お互い限界早すぎでしたもんね、と付け足すと、
死なす!!つって背中をおもっきり蹴られた。


さすがにちょっと寿命が縮まったから次からはやめとこうと思ったけど、
どうやらやっぱりやめられなさそう。

何故なら多分、おれも先輩もすでに、恋という名の病にかかっているのだから。








END
サイト4年やってきてこういうの初めて載せる気がします。いろんな意味で溶けそうです。ドロリ・・・
それもこれもすべて「シャワーユウジのとこに財前が進入してさらに誰かが来てしまうザイユウ」なんてゆうテーマを
よこしたムチ(妹)のせい。うんほんとごめんなさい。言い訳?しないよ。このザイユウ普通にデキてる設定。
ケンヤの登場→扱いが非常にいい加減でごめんなさいとだけ言い残しておきます。すいませんでした。

20/06/06