二人っきりの時はいつもそう。

背中からぎゅって抱き付いて来て、俺に悪戯しながら好きやと伝えてくんねん。

いつもは千歳の家とか俺の家とかで、学校では<小春とのお笑い>の手前
くっついて来たりなんかせえへんのに……


ここは教室。
取り敢えず誰もおらんけど、千歳の組の教室。
学校や。


【秘密の恋はもう嫌だ】


「千歳…、ちょっと離れてや?」
「嫌ばい。」
「ここ教室やで?」
「知っとうよ。」


時刻は放課後…
ちゅうか部活始まってまうわ。

いつもいつも千歳を探さなあかんくなるから、先に見付けて連れて行こうと思って
来たらこれや。

珍しく教室にいるもんやから変やなとは思ったけど、
近寄った瞬間に腕の中に捕らわれてしまった。

いつもはほんまに学校でなんか近寄って来ないのに。


「千歳?そろそろ離してや」
「嫌。」
「どないしたん?今日」
「ユウジのこつ愛しちょるばい」
「わかっとる…って…」


と、腕の中にすっぽりはまった俺の肩に顔を寄せて、猫みたいにスリスリしてくる。

くすぐったいのと恥ずかしいのと
誰か来てまうんやないかって気持ちでいっぱいになる。

この時間帯なら、教室に戻ってくる奴やっているはずや。

俺の心は、
恋心のドキドキと
その不安感のドキドキでいっぱいや。


「な、誰か来たらあかんから。」
「…何がいけんと?」
「…何がってな?お前、普通に考えて男同士でこんなんしてるんはおかしいやん」
「どうして?」


尚もスリスリ…
手は腰の辺りに触れとるし…

まぁ、それは位置的な問題からかも知れへんけど…


「どうしてって…」
「好きな子と、甘い一時味わうんはいけんと?」
「いけんくないけど、ここは学校やしな?」
「……嫉妬すったい。俺」
「は?」



嫉妬?
何言いくさってんねん。

いや、元々独占欲の強い奴やけど…


「学校でのユウジは小春ちゃんとラブラブばい」
「そりゃ、俺が小春にぞっこんが定評やん?」


元はほんまに小春にぞっこんやったのに横から俺をぞっこんにさせたんが千歳やん。

今では千歳が大好きで大好きでたまらんし、小春と漫才してたって千歳のことばっか考えてて…。

それに…


「千歳やって小春との事、ちゃんと分かってくれとるんやろ?」
「……」
「…やっぱ、嫌なん?」
「……」


千歳はまだスリスリするのを止めない。

それどころか、俺をきつくぎゅっと抱き締めてくる。

ほんまに、誰か来たら大変や…


「ちと…」
「小春ちゃんとラブラブするのは構わんたい」
「……」
「小春ちゃんのこつは、理解しちょるつもりたい」
「じゃ、何でなん?」
「他の奴が…」


他?


「他がユウジと小春ちゃんの話ばっかしちょるけん…」
「そんなん…」


確かに、小春とのラブルスは他の奴らにしっかり定着しとる。

せやから俺と小春はセットもんやし、他からすれば俺は「ほんまもん」には見えへんのかも知れへんけど…


「気にせんでええやん?」
「…俺だってユウジといつでもラブラブしたかね。」
「お、お前なぁ…」
「ユウジとキスしたり、いちゃいちゃしたい。」
「そ、それは学校やなくても恥ずかしいわっ!」
「ユウジはいつもむぞらしかけん。」


ふんわりと笑いながら千歳が言う。
不意の千歳の表情に不覚にも俺はドキッとしてしまう。

顔、赤いかも知れへん…


そんな俺の様子は千歳にも伝わったようで、また小さい声で「むぞらしか」なんて言われる。


ほんまに適わんわ…
惚れたもん負けやでほんまに。

あ?
惚れたのは千歳のが先なんやないか…?


「ね。これからは普段からこうしてユウジばぎゅってしてもよか?」
「あかん!」
「ちゅーは?」
「もっとあかん!!」


ちゅーとか言うなや。
大男のくせして。

似合わへんっちゅうに。


「ユウジ、顔真っ赤」
「喧しいわっ!」
「むぞらしか」
「だから喧しいっちゅうにっ!」


なんやねん。

ちゅうか、ここ教室やっちゅうのに!
ほんまに誰かに見られたりしたら…

嫌やってば。


「なぁ、離してや?もう気は済んだやろ?」
「んーん。まだ。今日一日分のぎゅう。やけん」
「あ、と、で!」


ちょっと可愛い系を意識して千歳の口に人差し指を当てながらそう言ってみる。

意外性で隙間作れるかも知れへんし。


でも、千歳はもっと意外だったみたいや。



千歳はぐっ、と俺のヘアバンを奪い去った。

軽くなった頭に意識がいってると髪をあげられて額にちゅ、とキスされた。


「ち、ちょ、千歳」
「愛しとうよ…ユウジ」


にこり、と笑いながら千歳はそんな事を言う。

ほんまに愛の言葉が得意な奴やわ…

恥ずかしい…


「ユウジ、今日はうちに来てくれるとや?」
「はあ!?」
「ふふ。後でって言ったけんね」
「アホ!」


不意をついたつもりが逆に不意をつかれてまう。

何やねんまったく…。


「はは。学校でこんなにユウジと話すの初めてばい」
「それは言い過ぎやろ!」
「そぎゃなこつなかね。ユウジは極力俺のこつば避けとうけんね」


そんなに避けてたやろか?


「…悪かったわ」
「よかよ。謝らんで?」
「確かに、小春と喋っとる方が多い気がするし…」
「ん。」


と、俺はふと、時計を見る…

時刻は部活開始時間から30分近くたっとる。


白石に殺される…


「千歳あかん!部活!」
「サボろっか?」
「アホかっ!」


平然と当たり前みたいに言うなっちゅうに!


「ユウジ」
「何やねん?」
「むぞらしか」
「は?」


そしてまた、俺をぎゅっと抱き締めてくる千歳…

ちゅうか、苦しいわ。
こいつ俺の事殺す気ちゃうか?


「離せ…」
「ねー。ほんなこつ。サボらん?」
「嫌や!」
「たまにはよかろ?」
「俺はそうやけど、お前はいつもサボっとるやろが!」


まぁ、部活には割と始めから参加しとる方なのかも知れんけど。

いつもがいつもやからな。



って、そう言う問題とちゃうやろ!


「千歳、な?早よ部活行こう?」
「…んー」
「こんなとこ誰かに見られて新聞にでものったらどないするん?」



見出しはこうや。
【アノ名物コンビ解散の危機か!?ユウジ浮気に走る!】


お相手は同じ部活の千歳千里くん。
って、…笑えへん。

笑えへんっちゅう話や。


しかもあのお笑い好きの新聞部の事や。
尾鰭の一つや二つ付け足すに決まっとる。

あることないこと言われて後処理大変になるってどころの話やなくなるで?


「千歳…頼むから離してや…」
「何ね?ユウジ。急に顔が真っ青ばいよ?具合悪い?」
「離してや…」
「……」


と、俺の心情を感じたのか、千歳はパッと俺を離した。

俺は千歳との距離を人一人分空ける。


「はぁ。喪失感…」
「アホ!」
「しゃんなかね。今日はユウジの言うこと聞くばい」
「…始めからそうせい。」
「…ばってん。いつかはユウジと学校でもいちゃつけるようにしてやるけんたい。」
「は…?」
「覚悟しなっせ。」


ふっと不適な笑みを浮かべる千歳。

覚悟って何やねん…
何するつもりや…


「さて、部活行こうか?」
「お、おう。」


千歳はもういつもの笑顔に戻っていて、そろそろと入り口に向かっていた。

こいつ…

ほんまに読めん…


「はい。」
「嫌。」


スッと手を差し出す千歳をするりとスルーして歩き出す。


「んー。やっぱり冷たかね。学校でのユウジ」


千歳は苦笑いしながらついてくる。


家や二人っきりの時は何ともせえへん事も、学校やと何か気恥ずかしくなるわ。

それはもちろん、誰かに見られたらってドキドキもあるからやけど。


いつの日か、学校で二人イチャイチャ…と、まではいかなくても、仲良う出来るような日々がきたらええな。

…なんて、今まで思ったこともなかった事を思ってまう俺は、

ほんまに千歳にぞっこんやと思う。


「ユウジ今日は家に遊びにきなっせ。」
「…わかったから早よついてきぃや。」




ほんまに。


千歳千里には適わへんわ。





end

***

「君想い人」歩亜さまよりキリリクでいただきましたちとユウ///
「学校でこっそりイチャイチャするちとユウ」なんていう頭悪いリクエストに
こんなすてきなちとユウをくださいました・・!
転載許可をいただいたので、さっそく展示させていただきました。
なんていうか雄っぽい?攻めっぽい?千歳がカッコよくて…ユウジじゃないけどキュンとしましたヾ(^Д^*)ノ
どうもありがとうございました…!!!


チトユウ万歳\(^O^)/\(^O^)/\(^O^)/
H22/04/24